はじめに
中小企業の IT 環境において、従来の Active Directory(AD) を使い続けるか、クラウドベースの Entra ID へ移行するかは大きな判断ポイントです。
特に一人情シスの現場では「既存の仕組みを残す安心感」と「クラウド移行の効率化・コスト削減」の間で悩むケースが多いでしょう。
本記事では以下の観点から解説します。
- 小規模企業での AD 維持コストとリスク
- Entra ID への段階移行シナリオ
- 「ハイブリッド環境」でしばらく運用する選択肢
小規模企業での AD 維持コストとリスク
オンプレミスの Active Directory を維持するには、サーバー運用に伴うコストとリスクが存在します。
維持コスト
- サーバーハードウェアの購入・更新費用
- 電気代、ラックスペース、バックアップ装置などの運用コスト
- Windows Server のライセンス、CAL(クライアントアクセスライセンス)の更新
- IT 担当者によるメンテナンス工数
小規模企業にとっては、数十万円規模のサーバー更新や年単位のライセンス費用が負担となります。
リスク
- ハードウェア障害によるサービス停止
- セキュリティパッチの未適用による脆弱性リスク
- 災害時に復旧できない可能性(オンプレのみの場合)
特に一人情シス環境では、障害発生時に対応できる人員不足 が最大のリスクになります。
🔗 Microsoft Docs: Active Directory ドメイン サービスの概要
Entra ID への段階移行シナリオ
完全にクラウドへ切り替えるのが理想に見えますが、実際には 段階移行 が現実的です。
ステップ1:SaaS 認証の移行
- Microsoft 365、Teams、SharePoint などクラウドサービスの認証を Entra ID に移行
- 社員は「会社のメールアドレスでクラウドサービスにログイン」できるようになる
ステップ2:デバイス管理の移行
- Intune と組み合わせ、PC をクラウド管理へ移行
- AD グループポリシーで実施していた設定を、Intune の設定プロファイルへ順次置き換え
⚠️ Intune のライセンスについて
Intune は Entra ID の無料版だけでは利用できません。以下のいずれかのライセンスが必要です。
- Microsoft 365 Business Premium
- Microsoft 365 E3 / E5
- Enterprise Mobility + Security (EMS) E3 / E5
- 単体の Intune サブスクリプション
👉 つまり、無料の Entra ID だけではデバイス管理機能は提供されず、Intune を使ったクラウド管理を行うには、これらの有料ライセンスを契約する必要があります。
ステップ3:残るオンプレ AD 依存の縮小
- ファイルサーバーやプリンターなどを段階的にクラウド化
- SharePoint / OneDrive for Business への移行や、クラウド対応プリントサービスの導入
👉 最終的には、オンプレの AD が不要になり、Entra ID で統合管理が可能となります。
🔗 Microsoft Learn: Entra ID の概要
「ハイブリッド環境」でしばらく運用する選択肢
とはいえ、すぐにオンプレ AD を捨てるのは現実的でない企業も多いでしょう。
そこで選択肢となるのが 「ハイブリッド環境」 です。
ハイブリッド環境の特徴
- オンプレ AD と Entra ID を同期(Microsoft Entra Connect(旧 Azure AD Connect)を利用)
- 社員は同じアカウントでオンプレとクラウド両方を利用可能
- 段階的にクラウド移行を進めつつ、既存の業務も継続できる
メリット
- 既存システムとの互換性を確保
- 社員の運用負担を最小化
- 一人情シスでも段階的にクラウド移行できる
デメリット
- ハイブリッドの設計・運用は複雑化しやすい
- サーバー維持コストが残る
- 最終的には完全クラウドへ移行する決断が必要
👉 「すぐにクラウド一本化は難しいが、将来的にはオンプレ脱却を目指す」企業には最適な移行方法です。
🔗 What is Microsoft Entra Connect?
まとめ
- AD 維持コストとリスク は小規模企業にとって負担が大きい
- Entra ID への段階移行 によって、クラウド活用を少しずつ広げられる
- ハイブリッド環境 を活用すれば、既存業務を維持しつつクラウド移行を進められる
- ただし Intune を利用したデバイス管理には有料ライセンスが必要 である点に注意
中小企業にとって現実的なのは「すぐに完全クラウド化」ではなく、ハイブリッドを経由した段階的移行 です。
クラウド基盤への移行を計画的に進めることで、コスト削減とセキュリティ強化の両立が可能になります。
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