Entra ID 条件付きアクセス実践ガイド|小規模でも失敗しない設計・導入・運用

Entra ID / Active Directory

はじめに

クラウド利用と在宅勤務が定着した現在、「境界の内側は安全」という考え方は通用しません。
ユーザーの場所・端末・リスクを都度評価してアクセスを制御する ゼロトラスト が標準になり、その中核が Microsoft Entra ID の条件付きアクセス(CA) です。
CA は「条件(Assignments)」と「アクセス制御(Access controls)」の if-then で構成され、MFA の要求、準拠端末の強制、アクセス拒否などを状況に応じて自動適用します。
基本概念と構成要素は公式「What is Conditional Access?」がまとまっています(概要)。

条件付きアクセスの基本

  • 👤 対象(ユーザー/グループ/ロール):特権ロールは最優先で強化。
  • クラウドアプリ/アクション:Exchange Online/SharePoint など特定アプリや認証コンテキストに適用(対象リソース)。
  • 🗺 場所(Named locations):国/IP/GPS ベースで評価(場所条件の活用例)。
  • 💻 デバイス状態:Intune の準拠・ハイブリッド参加などの属性で制御(デバイス準拠の開始)。
  • 🛡 リスク:ID Protection のサインイン/ユーザーリスクをシグナルに(ID Protection 概要)。

設計原則(小規模向けの現実解)

  1. 最小権限から着手:まずは管理者ロールへ「MFA 必須+レガシー認証ブロック」。
  2. 段階適用を徹底Report-only(レポート専用)で影響を可視化 → 問題がなければ本番切替(report-only の使い方インサイト/レポート)。
  3. “社内=無条件に許可”を捨てる:社内でも侵害は起こる。信頼済みネットワークは軽減の候補にはなるが、準拠端末リスクと組み合わせて判断。
  4. 例外の設計:SMTP AUTH/IMAP などレガシー経路は原則廃止。やむを得ない場合はサービスアカウントを分離し、期間限定の例外に。

推奨ポリシー雛形(サンプル)

A. 管理者アカウントの強制 MFA(必須)

  • 対象:Global/Privileged Role Administrator 等
  • 制御:MFA 必須+レガシー認証ブロック
  • ねらい:乗っ取りの初動を確実に遮断。

B. 社外アクセスは MFA、社内は準拠端末のみ

  • 条件:社外(信頼済み以外)→ MFA 要求/社内 → 準拠端末のみ許可
  • 補足:固定 IP だけを“安全”と見なさない。GPS/国別ブロックも併用可能(ネットワーク条件)。

C. Exchange/SharePoint は「準拠端末前提」

  • 制御:Intune 準拠 or ハイブリッド参加を満たさない端末はブロック。
  • 導入:まずは情報系アプリから適用し、業務影響を見ながら段階拡大(準拠ポリシー作成)。

D. 高リスクのサインインはブロック/復旧フローへ

デプロイの進め方(4週間プラン)

  • Week1:現状把握
  • サインインログで“場所・アプリ・失敗理由”を確認(Sign-in logs)。
  • 既存の MFA 実施率やレガシー利用の有無を棚卸し。
  • Week2:パイロット
  • 管理者+代表 5 名で A~C を Report-only。影響・例外を洗い出す。
  • Week3:本番切替
  • 管理者は A を即本番、一般ユーザーは B/C を部門単位で段階適用。
  • Week4:最適化
  • 失敗の傾向(MFA 拒否、場所不一致、非準拠)を分類し、ヘルプ記事と教育に反映。

運用・監視(“見える化”で回す)

  • 📊 ログ活用:サインイン/監査ログを Azure Monitor 等へ転送し、恒常的に可視化(統合手順ログ種別)。
  • 🧪 What If/Report-only:ポリシー影響を事前評価(What If ツール)。
  • 🧯 Break-glass アカウント:MFA 免除の緊急用を厳重保管。ロックアウト事故を防止。
  • 📬 ユーザー教育:プッシュ連打に安易に承認しない(MFA 疲労攻撃対策)。

よくある落とし穴と回避策

  • 自分をロックアウト:管理者適用は必ず Report-only→段階有効化。
  • 場所条件の過信:VPN/プロキシで想定外の評価に。複数経路と国ブロックを併用。
  • レガシー依存の残存:POP/IMAP/SMTP AUTH は MFA をすり抜ける経路。可視化して廃止計画へ。
  • 準拠判定の未整備:Intune 未登録端末が多いと業務停止に直結。先に自動登録と最低限の準拠基準を配布。

まとめ

CA は強いセキュリティと利便性の両立を可能にします。
小さく試して効果を測り、例外は明文化、ログを常時観測する——このサイクルを回せば、少人数の IT チームでも十分に運用できます。
リンクの公式手順を併読し、自社要件に合わせて段階的に最適化していきましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました